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ブルーライムストーンと長瀞



先日インスタグラムの投稿で知った、紅葉の綺麗な秩父の長瀞へクマくんと行ってきました。

紅葉もとても綺麗だったのですが、その公園の横に偶然あった博物館が思いがけず面白いところでした。

長瀞は岩盤が露出しているところが多く、地質学発祥の地なのだそうです。博物館の中には石のサンプルがゴロゴロしていました。地質学の名前は難しい漢字が並んでいるのですが、建材的なざっくりした言い方をすれば、ライムストーン・サンドストーン・グラナイト・マーブルなどです。多様な石が秩父から産出されるようでした。そのどれもが個性的で面白い。地中で一度生成された石が亀裂を生じ、その亀裂に土圧で石灰成分が圧入された状態で産出する石など、面白い風合いのものがあります。博物館の解説によると、霞が関の国会議事堂にも使用されているそうです。思えば秩父には石灰を算出する武甲山という白い地肌の山があります。石灰成分の多い地域なので、同じ系統の大理石やライムストーンなどが産出されるのかもしれません。

私は銀河系最強クラスの石材展示会にも顔を出しています。それなりに見てはおりますが、相応な資金持ちしか出られない退屈な展示会より、地質学の観点で切り出されて磨かれた、ナマの地場の石を並べた博物館の方がずっと刺激的でした。

ベルギーの田舎町にはDIRK COUSAERTという内装や家具の制作を行うチームがいます。彼らは納屋の古材や工場の鋼材など、自ら回収した古い部材を使います。近代的なコンクリートも使いますが、彼らの地域で長年愛されてきたライムストーンも好んで使用しています。彼らが好む石はベルギーブルーライムストーン。ほんのり青みがかったグレーから黒い色調の石灰岩です。石灰岩は酸に弱いのですが、その性質をうまく使うと非常に面白い近代的な石材加工をすることができます。その石の性質、酸の扱いについても彼らは熟知し、使いこなしていました。その一方で、ベルギーの街のあちこちの細部に見かける細くひっかいた様な伝統的な小口の成形方法も使用しています。伝統とかモダン?とかアバンギャルドとかそういうものではなくて、好きにやってるぜ、どう?いいでしょこのハーモニー。という知的なフランク野郎という感じです。私は中学生時代に覚えた一握りの語彙を連ね、少し大きめの声でありったけの賛辞を彼らに送りました。今に見てろと(笑)


http://www.dirkcousaert.be/en/

ベルギーのDIRKが用いるブルーライムストーンは建材としての国際的な競争力はあまり高くありません。少し似た雰囲気の、中東からアジアへかけて産出するライムストーンがベルギーへ大量に流れ込んでいると見えます。ですが、彼らは地元の石を素材感溢れる「家具」へと料理します。異素材の無垢な調和は美しいものへ繋がるとにっこり言い切ります。ベルギーに限らず、どこも人件費の安い国や地域に石材の主要産出地は移っていますが、日本にも石が産業として残っている地域があります。四国の庵治石や栃木の大谷石、宮城の雄勝石や伊達冠石など、名のある石です。しかし建材や墓石として流通している石だけが良い石なわけでは決してありません。

私が見た博物館のものは自然の石を切って磨いたものです。ギャングソーとは言わないまでも、大型の石材用切断機材を保有するような本物の石屋さんが切断し磨いたのでしょう。地元の石屋さんなのかもしれません。こうした素材は大量に生産してパッキングして流通にのせようとかとは少し違い、地場を潤すことで良しとする、素材に応じたスケール感で活かせたらと想像します。

サタデーファクトリーは技術と素材を持ち寄る製作所です。活用したい地域の素材を持ち込んでもらえるような、とりあえずサタファクに素材を持ち寄っておこう、というような、そんな製作所を目指します。

しかし秩父の石の多様性とその個性にはびっくりしました。地球の反対側まで見て回ることも大切かもしれませんが、足元こそよくよく見ておかなければなりません。同時に、何が面白いのかを気づくために、地球の反対側まで行くのは素晴らしい事だとも思います。

長瀞の青石をテーブルの天板に仕立て、シンプルに質実剛健につくられた鉄のフレームと共に世界の反対側に納品する。そんなことが出来る日が来るかもしれません。仲間が増えるほど夢は広がります。

きっと知らない素材が日本にもたくさんあると思える休日でした。


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