だんだん秋になってきました。夏は夏で良いものですが、秋は秋で良いものです。ゆるくほんの少し暮らしを変化させたいとき、一輪挿しは丁度良いものだと思っています。
一輪挿しは基本的には花を活けるものですので、そのままでは様になりません。ですので一輪挿しをひとたび買うと、挿すものをなんとなく探し始める傾向があります。普段ぼんやり歩いている道端の雑草に少し目が行き、普段素通りしていた花屋さんの花を横目で見るようになります。もともと道端の雑草の形や色に興味があったり、行きつけで顔なじみの花屋などがまったくない人でも、一輪挿しをひとたび買うと気になりだします。
花を活けるものには花瓶もありますが、花瓶は大人向けです。容量の大きな花瓶ほど、活けるときにバランスという難しいものを考えねばなりませんし、活けるものの量も必要なので、買うにせよ道端で摘むにせよ少々大変です。その点一輪挿しというものは気軽です。棒状の気に入ったものなら何でもよいわけですし、買うにしても「一本買い」という粋なことができます。初めて一輪挿しを購入したのは何歳の時だったか忘れましたが、今までにいくつもの一輪挿しを購入し、そのたびに魔力を感じてきました。
私は数百円のものから、1万円ちかくする一輪挿しまでいろいろな一輪挿し遍歴を持っておりますが、その経験を踏まえますと、一輪挿しというのはなんでもよいわけです。敢えてポイントをあげるとするならば、挿すものが雑草だったり手近な枝だったりすることの多い私にとっては、あまり大きくないほうが都合がよいということくらいです。そもそも雑草というのはタンポポを筆頭とした小型の植物が多いものです。茎も細くさほど長くありません。小さいほうがおさまりが良いと思われます。しかし、軽いものはあまりよろしくありません。ガーベラや小さいひまわりなどの「あたまでっかち系」のバランスを保ちにくいためです。スッと立ててパッと花がある状態にしたいとき、軽い一輪挿しはすぐ転びます。何度も倒れてしまう一輪挿しに手を焼くと、だんだん茎を短く切って立つようにしようという甘いささやきが始まります。この誘惑には本当に要注意です。立たせようとして切り進むうち、スッとした立ち姿はどこかに消え失せ、やたら短い茎に大きな花が咲くおかしなバランスになってしまいます。一輪挿しというのはなんでもよいとは申しましたものの、小さくて重いものが良いという持論を持っております。実は私も書いていてわかったわけですが、一輪挿し選びのポイントは「小さい」「重い」この2点です。
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自分がほんのりイメージする形に草花を挿すには、挿す花や枝の選び方が非常に大切です。雑草の場合、なるべく茎にコシのあるものを選ぶとうまくいきます。ネコジャラシのような細くてもハリのある茎のものは、頭が重くてもスッと立ってくれるので「葉っぱ押さえ」の技法をつかうとさらにグッと良くなります。「葉っぱ押さえ」というのは、一輪挿しの口に葉っぱの部分を持ってきて、口と細い茎の間をフィットさせる方法です。写真の黄色い花はまさしく「葉っぱ押さえ」によって好きなバランスに軽く固定されている状態です。これは花を摘むときから、葉っぱと花の位置を見極め、葉を含めて花を選んでいくことが重要になります。この「葉っぱ押さえ」の技法を駆使出来れば、よほど気の利かない口の広い一輪挿しでない限り、スッと花を挿すことができるようになります。枝葉も含め、長めに摘むのがよろしいのではないかと思われます。同じ要領で、葉っぱではなく茎別れした部分を一輪挿しに差し込む「茎押さえ」という方法もございます。
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このピンクの花は倉庫のわきに生えていたものですが、「茎押さえ」と「葉っぱ押さえ」のあいのこ的な方法で軽く固定されています。1本の主軸から枝が複数にわかれ、その先に小さな花がいくつもついているかわいい花ですが、一本の枝は細く、枝ぶりも奔放なため、そのまま一輪挿しに挿しても重心の関係でくるくる回ってしまい、ここぞという角度におさまってくれません。そこで「枝押さえ」の秘儀を用い、枝分かれした部分を一輪挿しに優しく押し込んで角度を決めています。
この辺りまで参りますと、雑草を見るときのチェックポイントが複数出てくるため、歩く速度では見抜ききれない、情報処理が追い付かない状況が出て参ります。そうなりますと、その花がうまく挿せるかどうかのポテンシャルを確認する、しゃがみ込みの境地に達してまいります。群生していることの多い雑草や、束になって花瓶に入っている花屋さんの花から、これはイケると感じられる一本を選ぶのはなかなか楽しいものです。お店の方からしてみれば、しゃがみ込んであれだけ悩んで一本だけ買うのかと思われてしまうかもしれませんが、それが玄人というものです。
このようにひとたび一輪挿しを手に入れますと、道端や花屋の前でしゃがみ込み、しばし観察するほど行動に変化が出てくる可能性があります。変化は少しずつ、気づかないうちに進行しますので、日常の行動に大きな変化がいきなり現れるような心配はございません。しかし、気軽に扱える一輪挿しの魔力は思いのほか大きいと思われます。
季節を感じさせてくれる草花のある暮らしというのは良いものです。もしかすると一輪挿しが草花のある暮らしに自然と向かわせてくれるかもしれません。だんだん秋になって参りましたので一輪挿しの楽しいシーズン到来です。ネコジャラシが至る所に生えてきていますので、3本くらいを長さを変えて挿してみようと思っています。