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やわらかい反逆児



整備中の拠点001に向かう途中においしいものをみつけました。

「四里餅」です。

ヨンリモチ、シサトモチ、いえ、「シリモチ」と読みます。


まさかの駄洒落かよ…とあなどらないでいただきたい想いです。この四里餅はなんと中にあんこが入ったお餅です。焼き印が入っていて、その焼き印が「タテ」か「ヨコ」かによって中のあんこがコシアンなのかツブアンなのかを示しています。どっちがコシアンなのか、手早くシンプルに教えてくださいますので、ぜひ聞き逃さないようご留意いただきたいと思います。拠点に到着して食べ始めるころには、もうどっちがどうだか忘れていることとご推察いたしますが、かぶりついてみてください。


かぶりついた瞬間、それまであんこの粒が焼き印でどうのと言っていたことがどうでもよくなるほどの柔らかいお餅の触感がもにょもにょしてまいります。

このお餅の柔らかさというか滑らかさは格別です。

私が思いますに、四里餅は「お餅メイン」「餅クオリティ推し」のエッジの効いた甘味です。大福ではなく「お餅」と感じています。見た目の華やかさの追及や、フレーバーの充実には全く関心がないかのような、餅らしいお餅の形をしていることも、お餅がメインであると感じさせます。そもそも中のあんこがどうなのか、素人目にはわからない暗号化した焼き印の方向のみで伝えていたり、主役はお餅であることを思わせる節があります。

この四里餅はお土産にもちょうどよい大きさです。バラ売りもありますが、5個と10個の箱入りもあったはずです。価格もケーキより求めやすいものです。しかしこの四里餅は、朝製造されお昼を過ぎるころには堅くなり始めます。ベストな食べ頃がめちゃくちゃ短いおやつなのです。3時のおやつまで温存するのはそれなりのリスクが伴います。買ったらすぐ食べる。おそらくそれが最善です。そう思えば、焼き印の向きがどうであんこが粒だと忘れるような時間を空けてはならないという、皆まで語らない餅職人の示唆なのかもしれません。


四里餅さんは埼玉県内に数店舗のみ。直販を行うお店です。ごく限られたエリアで販売し、ベストな状態でお餅を提供されています。

そして、朝は結構早くいかないと売り切れています。地元の人は何がおいしいのかよく知っていますし、お餅屋さんは腹八分の売り方を心得ているように思います。

しかし、明治期から変わらぬお餅を作るなかで、世間では堅くならないお餅に関する様々な技術革新があった事と思います。堅くならなければ都心で流通させることができたかもしれませんし、拡大するチャンスがあったのかもしれません。

ダーウィンは変化することが…なんとかと言っています。ネットで調べると、最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である。と。でも、四里餅さんはそれにあてはまっていないように思います。変化する時代の中で変わらないための変化をしているんだ!という隠れた努力があるのかもしれませんが、パッと見の凄い感じや、いわゆるインスタ映えはありません。ですが、確実に生き抜いてきた強いモノづくりをされています。そして、混んでいるのでなんだろうと立ち寄った新参者の私を、その餅肌で虜にし、ついてきた息子のお気に入りにさえなっています。昔ながらの味でいいねとか、伝統的でいいねという事ではなく、おいしいねという本質が四里餅を支えているように思います。


環境や時代の変化を敏感にとらえ、変化する努力をすることは生き抜くために必要なことの1つであることは間違いなさそうです。ですが、この素晴らしくもにょもにょでスグ堅くなる四里餅を食べると、徹底的に世の中の逆であっても、突き抜けるとものすごい個性になる事があると感じます。四里餅さんのご商売は品の良いスモールビジネスです。ですが、ものすごい時代の反逆児なのではないかと思います。

おっとりしていたら時代の変化に敏感になりましょうと言われ、変わらなければ淘汰されますよとのっそり動き出し、その時代のものになろうと人並みに努力するものです。そう思うと、この角もなければ骨もないまるいお餅が、エッジの効いた骨太の反逆児に思えてきます。多くの店舗を持たず狭いエリアで展開し、売り切れる量を生産する。その背景には「お餅が堅くなっちゃうからね」という一貫した考えを腹に据えていらっしゃるように思えてなりません。

時代が動いていくとき、いち早く変化していく群れと、変わる気があるのかないのか、なんだかよくわからない群れがあります。後者の群れは時代に鈍感なのか、変化に臆病なのか、それとも腹を据えているのか、いろいろ混ざっているのでよくわからないものです。何をしたいのかを自分で理解するのは難しい事ですが、それをやろうとするとき、やすやすと時代を言い訳にはできないと思わせるお餅です。

何を今さらとも思いますが、ものづくりの隆盛は過ぎたといわれます。サービス。コンテンツ。体験なんだよ。モノを売ってちゃいかんよと。そういう為になるお話しの場には、おいしい四里餅でも差し入れすれば、気が利くねと株が上がるように思うのですが、すぐ堅くなっちゃうんです。

つきたてで水分の多い四里餅。これでもかとまぶされた、お餅がくっつかないための粉を口の廻りにつけてご賞味ください。


大里屋本店 四里餅

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